『チョコレート工場の秘密』
『チョコレート工場の秘密』とCharlie and the Chocolate Factory 読了。すでに、原書は読んでいたのだが、翻訳を検討するために再読。ダールの英語はリズミカルで、声に出して読みたくなる文章だ。ウンパ・ルンパ人たちが歌う歌以外のところでも、言葉遊びが満載である。そして、何よりもダールの毒の効いたユーモアが楽しい作品だ。
柳瀬尚樹の翻訳が評判が悪い。アマゾンのカスタマー・レビューにも批判的な意見がよせられている。登場人物の名前に意味を加えたこととか、彼があとがきに書いた「前翻訳者への批判」に拒否反応を示している読者がいる。かなり刺激的な表現だったので、いったいどんなことが書いてあるのだろうと、ちょっと意識してあとがきも読んだ。
「あの訳書では、名前が面白くもなんともない。はたして訳者がわかっていたのかどうか、、、。」(あとがきより。p264)
ダールの「チョコレート色」のユーモアに触発されて、ちょっと口がすべった感じではあるが、名前の翻訳についての彼の姿勢や名前の翻訳は、至極まっとうである。拒否反応を起こしている人は、柳瀬氏の文体に「慣じみにくい」からではないだろうか。全体の翻訳も、(私ごときが批評するのもおこがましいが)調子がよくて、工夫が凝らされて、よくできている。作品の真髄をきちんと捉えた翻訳であると思う。さすが、『フィネガンズ・ウェイク』をお訳しなっただけのことはあると、私には思われた。ただし、一カ所 ? と感じたところがあって、惜しい。
田村隆一版『チョコレート工場の秘密』は図書館にいかないと、ないだろうな。これを読んでから、日本語訳についてはもう一度考えたい。
それよりも、なによりも、こうして古典的な子どもの文学が、次々映画化されることの方が、私には気になる。ダールの場合はどうかは知らないが(ダールが評論社から新装版で出版されたことと映画化の時期の問題)、映画化されると作品の裾野が広がり、読者ががぜん増える。これは、もちろん喜ばしいことである。しかし、その後、子どもたちと作品との出会いに変化が起こるのではないかと思う。活字からではなく「映像」から先に、作品を知る子どもたちが圧倒的になるだろうと予測される。いや、映画だけで「知ってるつもり」になってしまうかもしれない。「白雪姫」の白雪姫の蘇生について、本来のグリム版を知っている学生は、だいたい一割程度である(ここ数年、毎年学生にきいている)。「白雪姫」は「王子のキス」で目覚めると思っている学生がほとんどだ。
どんなにつたなくても、自前の想像力をつかって作品を楽しむことのよろこびが、奪われてしまうのではないかと、私は危惧している。来年3月には、<ナルニア国物語>が公開される。いまから期待がよせられているようだし、私自身も興味がある。しかし、どれほど良くできていようと、どれほど映像作品としてすぐれていようと、作品世界を構築することにおいては、映画は受動的だ。
柳瀬尚樹の翻訳が評判が悪い。アマゾンのカスタマー・レビューにも批判的な意見がよせられている。登場人物の名前に意味を加えたこととか、彼があとがきに書いた「前翻訳者への批判」に拒否反応を示している読者がいる。かなり刺激的な表現だったので、いったいどんなことが書いてあるのだろうと、ちょっと意識してあとがきも読んだ。
「あの訳書では、名前が面白くもなんともない。はたして訳者がわかっていたのかどうか、、、。」(あとがきより。p264)
ダールの「チョコレート色」のユーモアに触発されて、ちょっと口がすべった感じではあるが、名前の翻訳についての彼の姿勢や名前の翻訳は、至極まっとうである。拒否反応を起こしている人は、柳瀬氏の文体に「慣じみにくい」からではないだろうか。全体の翻訳も、(私ごときが批評するのもおこがましいが)調子がよくて、工夫が凝らされて、よくできている。作品の真髄をきちんと捉えた翻訳であると思う。さすが、『フィネガンズ・ウェイク』をお訳しなっただけのことはあると、私には思われた。ただし、一カ所 ? と感じたところがあって、惜しい。
田村隆一版『チョコレート工場の秘密』は図書館にいかないと、ないだろうな。これを読んでから、日本語訳についてはもう一度考えたい。
それよりも、なによりも、こうして古典的な子どもの文学が、次々映画化されることの方が、私には気になる。ダールの場合はどうかは知らないが(ダールが評論社から新装版で出版されたことと映画化の時期の問題)、映画化されると作品の裾野が広がり、読者ががぜん増える。これは、もちろん喜ばしいことである。しかし、その後、子どもたちと作品との出会いに変化が起こるのではないかと思う。活字からではなく「映像」から先に、作品を知る子どもたちが圧倒的になるだろうと予測される。いや、映画だけで「知ってるつもり」になってしまうかもしれない。「白雪姫」の白雪姫の蘇生について、本来のグリム版を知っている学生は、だいたい一割程度である(ここ数年、毎年学生にきいている)。「白雪姫」は「王子のキス」で目覚めると思っている学生がほとんどだ。
どんなにつたなくても、自前の想像力をつかって作品を楽しむことのよろこびが、奪われてしまうのではないかと、私は危惧している。来年3月には、<ナルニア国物語>が公開される。いまから期待がよせられているようだし、私自身も興味がある。しかし、どれほど良くできていようと、どれほど映像作品としてすぐれていようと、作品世界を構築することにおいては、映画は受動的だ。