スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「千の風」に思うこと

『あとに残された人へ:1000の風』(南風椎/三五館/1995年)という小さな本をもらったのは、おそらく10年ほど前のことになるだろう。岡山県の公立図書館員だったKTさんが亡くなったことを知ってから、数年がたっていた。講演会をききに白百合女子大に出かけた時のこと、初めて出会った岡山からの参加者とお話をしていて、何かの拍子にKTさんの話題になった。KTさんとの出会いや、私にしたら突然にも思えた若すぎる死や病気との闘いのことなどお話しした。そしてそのとき、その方から、KTさんにまつわる品として『あとに残された人へ:1000の風』をいただいたのである。

いただいた本を読んで、またしばらくは、あらためてKTさんのことを思わずにはいられなかった。自分の病気のことを識り、西洋医学に頼らず、最後まで自宅で療養し、覚悟して逝ったKTさんの靱さを思いおこしていた。そこに書かれた詩は、KTさんのメッセージとして、風になった彼女が届けてくれたのだと感じた。そして、本は大切に本棚にしまった。いまでもKTさんについては何かの拍子に思いおこす。あの靱さに近づけたらと思うこともある。大切な詩だった。

いつの頃からか、『千の風になって』(新井満/講談社/2003年)がベストセラーになり、クラッシック歌手が歌う「千の風になって」も異例のヒットを続けていると聞いても、興味が引かれることはなかった。「千の風」は、すでに私のなかでゆるぐことのない物語を紡いでいたからだ。ベストセラーになった本や詩は、私のなかにあるものとは別物であると思っていた。

このたび、機会があって『千の風になって』を見せていただいた。やはり、私の思ったとおり、それは、私のなかに深くとどいたものとも、本棚にある『あとに残された人へ:1000の風』ともまったく違うものだった。

「まったく違う」と書くのは語弊があるかもしれない。基本的には同じ詩を訳しているのだから。『千の風になって』の訳者である新井満氏は、「言葉づかいから句読点のつけ方まで数えると、十カ所以上ことなる」(p68)とおっしゃっているが、句読点の違いを数えなければ、その違いは、タイトルの表記("A THOUSAND WINDS" "a thousand winds")と、ほかには、本文中に1カ所ある。この違いは本質的なものかもしれないので、あとで原文を紹介したい。

二つの作品を比べて大きく違うのは、新井版は曲をつけることを前提に訳詞をしていることにあるだろう。その違いは、本として読んだ時、とくに私のように南風版になじんでいる者にとっては、決定的かもしれない。歌にするためには、形式を整えなければいけないし、言葉の選択も制限される。そして、新井満訳は、それゆえセンチメンタルである。

あるものが万人に受け容れられるためには、何らかの操作が必要なことがあるのかもしれない。それがこの場合は、「歌詞」にすることだったのだろう。だからといって、南風版が普遍的でないとは決して思わない。2000年には第6刷になっているのだから、じわじわと人の口から口へと、手から手へと渡されていたことだろうし、いまでも読みつがれているだろう。

いま、二冊の「千の風」をじっくり目にして気づくのは、『あとに残された人へ:1000の風』は、非常にシンプルな作りであるのに比して、『千の風になって』は、楽譜や「「あとがき」に代える十の断章」が入り、盛りだくさんな本として編集されていることだ。たくさんの物語を加えなければこの本を生みだすことができなかったのかと、穿った見方をしてしまうぐらいに…。南風版はとにかく「詩」を伝えたいという強い意志が感じられ、訳者の名前もひっそりと、できれば隠れてしまいたいと思っているかのように佇んで、そこにある。

ところで、新井版に見つけたたくさんの物語のなかに、2001年テロの一年目の追悼集会でこの詩が朗読されたとき、「この詩は父が耳元でささやいてくれているような気がした」(p61)という人がいたことを知った。そう、この詩はとてもインティメットな感覚をよびさます。残念ながら、新井版ではこの感覚を持つことが難しい。

「どうか、その墓石の前で/泣かないでください。/わたしはそこにはいません。/私は死んでないのです」(南風版)

耳元でささやいているような感覚をもつのも当然である。風になった「その人」は、お墓の前で悲しんでいる人に、まさにいま吹きわたることで自分の思いをささやいているからだ。「千の風」は、大切なあの人が風となって、私に思いを伝えているのだ。

ところで、原文の違いを記しておく。英語の単数・複数については、日本語になってしまうと微妙にわからなくなってしまうことがあるが、原文のこの違いは、どう解釈できるだろうか。

I am the soft star that shines at night (南風版)

I am the soft stars that shine at night (新井版)


コメントの投稿

非公開コメント

感じたことを

コメントします。
南風版は、「私」の魂の意思が、ひとつの星として強く輝き
そして文字通り優しく表現されいているのを感じます。
「靱さ」を見事に表現しているのではないでしょうか。

新井版は、「私」を自然(星たち)としてとらえ、自然の優しさを表現しているように感じました。

私でしたら、やはりひとつの星として靱やかに輝きたいです。
でも「空になりたいな(*^_^*)」と思ったこともあります。

※「靱さに」・・・最初、読めませんでした。^_^;
私は家の前の木の幹が靱やかに揺れていると、
「木っていいな(*^_^*)」と思います。v-255

NoTitle

二つの文を訳すとすると。

「私は、夜空に光るあの星になります」

「私は、天空に輝く星になる」

後者は、"stars"と複数だけに、言葉を発するのは「神」的存在のような感覚をもつのです。

なんかおかしい

新井版の訳に「あれ?」と思うところを見つけてしまいました。

I am the diamond glints on snow

というところです。新井版では「冬はダイヤのように きらめく雪になる」となっています。でも、この文の補語(…になるという部分)は、"glints"なんだけれど。「雪にキラキラかがやく光り」というところでしょうか。

「神」的存在

となると、タブーを感じます。
神様の領域まで人間は達することはできないと思います。

私が「空になりたい。」と以前思ったのは、
「離れるのはいや!ずっと眺めていたい。」と自分本位に思っていたからで、
優しく世界を眺める存在は「神」的存在しかありえないような気が今はします。

コメントのdiamondの意味が、私の持っている辞書では「光り」とは記載されていませんでした。(高校生の時に使っていたものです。^_^;)
「訳すのは本当に難しいものだ。」とこの時点でお手上げでした。^_^;
しかし「雪になる」の訳に違和感を覚えました。「雪にきらきら光るdiamond」と一応私はとらえました。

考えれば考えるほど混乱しています。(@_@;)v-42

NoTitle

訳の世界は本当に深いですね。

たったひとつの単語でも、訳によってガラリとニュアンスが変わってしまう・・・
いかに原文の世界を忠実に伝えるか。
これは、ただ日本語に忠実に直訳すれば良いというのではなく、
いかに、訳者が原作の世界、その1つ1つの場面のイメージをしっかりと捉えるかということのような気がします。
訳者のはたす役割や責任の重さを、わしこ先生の詳細な検証からずっしりと感じます。

「千の風」は、新井さんの訳を何の疑問もなく、まるで最近は新井さんの作品であるかのように受け取っていました。

自分でもいろいろ調べてみたところ、新井版はかなりアレンジされていたんですね。

この詩の原作者と言われている、Mary Fryeの
オリジナルバージョンとされている原詩も見てみました。
大変興味深いです。

原作者の説はいろいろあるようですが、
おそらく、この詩の作られた意図からすると
万人向けに書かれたのではなく、
“わたし”というはっきりした個人から“お墓の前で佇むあなた”というはっきりした対象への、やはり“intimate”な感覚の詩のような気がします。
新井版は、詩的にアレンジされていることで、万人には受け入れられやすくても、原文の世界がボヤけてしまっている感じがしますね。
“I”を“stars”と複数であらわせば、確かに聖書の原語にも出てくるような“神”的なイメージとも重なり、“大切なあの人”よりもちょっと幻想的で詩的なイメージになります。

ちなみに、オリジナルと言われている詩では
“I am the starshine of the night.”で、
ダイヤモンドの箇所も、オリジナルでは
“I am the softly falling snow.”
となっていて、原詩の段階で、いろいろアレンジがされた
可能性が高いようですね。

わしこ先生のご指摘がなければ、原詩をたどるようなこともなく、この詩の浅い部分だけしか知らないで終わっていました。
勉強になりました。
誰かにおすすめする時は、南風版を渡したいなと思いました。

NoTitle

作者については諸説ありますね。Mary Fryeさんのものも読んで見ました。お知らせいただきありがとうございました。

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

月別アーカイブ

最近のコメント

プロフィール

わしこ

  • Author:わしこ
  • 無断転載ご遠慮ください。
FC2カウンター
最近の記事
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。